測定物性 | メルトの起電力,Na2O活量 |
測定条件 | 最高1600℃,雰囲気制御可能 |
|測定精度|±300mVのEMFに対して±5mV以内
設計・製作 | 菅原 透,瀬戸雅弘 |
履歴 | 2011年(滋賀県立大学) 〜,2013年超小型EMFセルの開発 |
設置場所 | 滋賀県大の装置は解体されました.超小型EMFセル:総合環境理工学部 224号室 |
測定原理
濃度の異なる二種類の電解質溶液のそれぞれに白金電極を入れて溶液を接触させるとイオンが拡散すると同時に電極間に電位差が生じ,濃淡電池が形成されます.高温で溶融状態にあるケイ酸塩メルトはアルカリイオンやアルカリ土類イオンが溶解した電解質溶液であり,濃淡電池をつくることができます.ケイ酸塩メルトで濃淡電池を構成するとNaイオンの拡散が支配的であるため,二種類のメルトの間のナトリウムの活量の比の対数は起電力に比例します(EF=RTln(aNa2O(melt1)/aNa2O(melt2),ネルンストの法則).従って,Na2O活量が既知のメルトを用いて他のメルトのNa2O活量を測定することができます.<br> Na2O活量はギブスエネルギーのNa2O物質量についてに微分であるため,活量の温度,組成依存性を調べることで,メルトの混合ギブスエネルギーの大きさについて考察することができます.またメルトにおける鉄や硫黄の酸化還元反応はNa2O活量依存性に大きく依存するため,メルトのレドックスの組成依存性の考察にも役立ちます.
写真は滋賀県大で用いていた起電力測定セルです.実験後にセルを水冷している様子.
アルミナタンマン管(ニッカトー SSA-S)にSiO2-Al2O3-Na2O系の参照ガラス試料,白金ルツボに測定ガラス試料を入れます.濃淡電池の起電力は白金電極近傍のNa2Oの濃度差で決まります.参照試料はAl2O3を含んでおり,また測定試料側の電極はアルミナタンマン管から距離的に離れているため,アルミナタンマン管の溶出に伴う拡散は測定には影響しません.なお参照メルトと測定メルトを接触させる目的でタンマン管に切り込みが入れてあります.<br> 以前の研究では塩橋を構成したり,βアルミナ固体電解質などが使用されてきましたが,写真のような単純なセルでも十分に高精度な測定が可能です
上記のような単純な濃淡電池でも上手く測定できることから,より一層の小型化と迅速計測ができるはずだと考えました.そこで2013年に超小型EMFセルの試作と試験を行いました.試行錯誤の結果得られたのが,左図の測定セルです.参照試料と測定試料のそれぞれを細い白金線で縛って酸素バーナーで溶融し,残った白金線の下部をアルミナ細管に巻きつけます.これを炉内に設置すると両端のガラスが溶けて接触します.二本の吊線の間に発生する起電力をマルチメーターで計測します.
左の写真は実際に測定に用いたEMFセルです.
このEMFセルを電気炉の中央にセットして測定します.
測定結果です.EMFセルを炉内に入れた瞬間に約80mVの安定した起電力が得られており,繰り返しの再現性も良いことがわかります.SiO2-Na2O系とSiO2-Al2O3-NaO2系メルトに対する測定結果は,我々の従来法による測定値とよく一致することが確認されました.従来法では約30gのガラス試料を用いて5時間以上の計測が必要でしたが,超小型セルでは200mg程度の試料で数分以内に計測が可能です.この測定法,もっといろいろと試して考察を広げたいのですが,他の研究テーマが忙しくマンパワーも足りないため,現在は中断しています.