測定物性 | メルト,ガラス,結晶の比熱(熱容量),結晶の融解熱,ガラス転移温度 |
温度範囲 | 600-1630℃ |
雰囲気 | Arガス |
測定精度 | 相対エンタルピー ±0.5%,比熱 ±1% |
設計・製作 | 菅原 透 |
履歴 | 2005年完成(岡山大),2006年検出器改良,2007年滋賀県大移設,2012年秋田大移設 |
設置場所 | 総合環境理工学部 5号館 224号室 |
落下法熱量測定の原理
上部の加熱炉と下部の恒温壁型熱量計から構成されています.測定前に熱量計の内部にドライアイスで氷を生成させ,その後0℃に保持します.加熱炉で加熱保持した試料を真下の熱量計に投入すると氷が融解し,熱量計内部の体積が減少して外から内部に水銀を吸い込む仕組みになっています.試料の熱量(J)は水銀の質量変化(g)に比例し,その比例係数は氷の融解熱,0℃の水銀と氷,水の密度から求まる物理定数です(240 J/g).温度を変化させてエンタルピーを測定し,その結果を温度で微分することで比熱が求まります.ガラス化しない試料の場合(例えばFayaliteやAl2O3)であれば融解熱も測定できます.ガラス化する試料では相対エンタルピーの温度変化の傾きの不連続からガラス転移温度も求まります.
熱量計検出器
放熱板付きの投入管とフランジはそれぞれ銅の丸棒から削り出しで形成されており,ハンダで接合してあります.ガラスの二重容器の内側には脱泡した蒸留水と水銀が充填されており,水銀で埋められたガラス管が挿入されています.検出器の上方には加熱炉からの輻射を遮断するためのシャッターが二ヶ所に取り付けてあります.測定時には投入管の末端をドライアイスで冷やして放熱板に氷を形成させます.
水銀の満たされたガラス管が三重に取り囲んでいるのは,熱量計の中に取り込まれる水銀を0℃でプレクーリングするためです.投入管とシャッターはすべて真空シール構造で真空引きとガス置換が可能です.熱量計内部の結露を防ぐ目的で,測定はAr雰囲気で行います.
検出器の構造
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熱量計の充填
熱量計に用いる蒸留水は溶存ガスを十分に脱泡する必要があります.また水銀の充填時は気泡を巻き込みやすく,銅に付着するとアマルガムになってしまうため注意が必要です.それらの作業を確実にできるように専用の充填装置を製作して用いています.充填作業は基本的には移設時のみで,水と水銀を一旦組み込めば熱量計の検出器はそのまま永久に使用できます.
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サーモスタット
測定時は熱量計を外界と熱的に遮断するために,氷水のサーモスタットに浸します.
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冷却管
氷を形成させるための銅製の冷却管です.冷却管の構造の微妙な違いで氷のでき方も異なり,実験により使い分けています.
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水銀重量の計測
水銀で満たされたガラス管は分析天秤に乗せられた水銀入りのビーカーに接続しています.水銀水位の変化で浮力が変わらないように,先端はキャピラリーチューブになっています.天秤はパソコンにRS-232Cで接続されており,測定中の重量変化をリアルタイムで計測・記録します.
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ケラマックス炉
シリコニット製の既製品加熱炉を改造し,棒状のLaCr2O4発熱体(ケラマックス)に交換してあります.ケラマックスはSiCと比較してより高温(~1800℃)までの加熱が可能で,適切に使用すれば劣化も少なく長く使用することができます.私は2005年以来100回以上の昇温を行っていますが,加熱能力はまだ十分で発熱体は交換していません.
この加熱炉はガス混合による雰囲気制御ができるので,熱量測定の他に相平衡実験などにも用いています.
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加熱炉の制御パネル
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装置全体の電気配線図
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加熱炉上部の保護カバーを取り外した状態です.炉のサイズに対して発熱体の長さがギリギリだったため,写真のように棒状発熱体の導線を碍子管に巻きつけて吊ってあります.
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加熱炉の下部の様子.写真の電極も鉄板から切り出した自作品です.
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試料は長さ3cmのテーパー形状の白金ツルボに入れ,写真のように直径0.2-0.3mmの白金線で加熱炉の中央に吊るします.試料は加熱から15分以内に均一温度となります.その後,吊線に30V程度の電圧を加えて白金線を溶断してルツボは真下の熱量計に落下させます.
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データ解析プログラム.試料を落下させることで熱量計内部の氷が融解して体積が収縮し,それを埋め合わせる量の水銀をビーカーから吸い上げて減量している様子が測定されています.測定前の氷の形成も含めて一回の測定は40~50分程度で完了します.
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アノーサイトメルト(50SiO2-25Al2O3-25CaO, mol%)の測定例.Richet and Botting (1984a)と比較してメルトの相対エンタルピーがやや高いのは,測定試料の量の違いに起因するガラスの仮想温度の差によるものです.測定から得られる熱容量(エンタルピープロットの傾き)はRichet and Botting (1984a)とよく一致しています.